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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)211号 判決

福井県敦賀市三島町二丁目四番三一号

原告

宮元製袋株式会社

右代表者代表取締役

宮元武寿

右訴訟代理人弁理士

戸川公二

神奈川県小田原市国府津二五一九番地

被告

小室徳太郎

右訴訟代理人弁護士

三宅正雄

同弁理士

松永宣行

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六二年審判第一六八四号事件について平成二年六月二五日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「定置用土俵」とする実用新案(以下「本件実用新案」という。)に係る実用新案登録第一五八一四七一号(昭和五六年一二月一九日出願、同五九年六月二七日出願公告(実公昭五九-二一六六一号)、同六〇年一月二二日設定登録)の実用新案権者であるが、原告は、昭和六二年一月二七日、被告を被請求人として右実用新案登録を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、右請求を昭和六二年審判第一六八四号事件として審理した結果、平成二年六月二五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

二  本件実用新案の要旨

ポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いて所要の長さに裁断し、底部を縫合するとともに上端開口部には該織物素地を内側に折返して補強縁を形成するとともに任意数個の挿通孔を穿孔し、該挿通孔に閉塞兼連結ロープを挿通させてなるもの、若しくは上端開口部に閉塞兼連結ロープを包被縫合させてなる定置用土俵において、底部縫合部の下端に該織物素地よりなり且その長さが三~一〇cmの底縁部が形成されてなり、而も該底縁部のそれぞれ縦及び横方向の略中央部に、該底縁部と水平に且その長さが五~一〇cmのスリット状に溶断されてなる把持部が、表裏の織物素地を貫通するよう形成されてなることを特徴とする定置用土俵。(別紙図面(一)第1ないし第3図参照)

三  審決の理由の要点

1  本件実用新案の要旨は前項記載のとおりである。

2  請求人(原告)の主張及び引用した証拠方法

請求人は、「ポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を所要の長さに裁断したるうえ、底部を縫合するとともに上端開口部の該織物素地を内側に折返して補強縁を形成するとともに、任意数個の挿通孔を穿孔し該挿通孔に閉塞兼連結ロープを挿通させたもの、若しくは上端開口部に閉塞兼連結ロープを包被縫合させた定置用土俵」(以下「本件係争の構成」という。)は、本件実用新案の出願前公知であり、本件実用新案は、右公知の構成に、甲第一号証(実開昭五六-九一二四八号公報、本訴における甲第六号証)、第二号証の一ないし三(昭和五四年一二月一四日付け実用新案登録願書、本訴における甲第一一号証)、第三号証(実公昭五一-一八一六七号公報、本訴における甲第七号証)及び第四号証の一ないし五(足立義雄外著「繊維工学Ⅱ織物」実教出版株式会社発行、本訴における甲第八号証の一ないし五)に記載された技術を付加したにすぎないから、右甲各号証に記載された考案に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法三条二項の規定により実用新案登録を受けることができないものである旨主張し、右主張事実を立証するため、右甲各号証を証拠方法として引用した。

3  特許庁の判断

(一) 請求人は、本件係争の構成は本件実用新案の出願前公知であると主張する根拠を、本件実用新案の公告公報中に従来例として記載された事項を引用するだけで、その主張事実を立証するために他の証拠方法は何ら提出七ていない。

しかし、前記公告公報中に従来例として記載されたものは、本件実用新案の考案者が本件実用新案を完成するに至った過程において、解決すべき問題点があるものと認識したものを記載したものと認められるので、その記載のみをもって直ちに本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったということはできない。

(二) また、甲第一号証及び第二号証の一ないし三には、ポリプロピレンのモノフィラメントを網状に編んで形成した袋本体の下部に、帯状把手を設けた穀物収納袋(別紙図面(二)参照)が、甲第三号証には、底縁部に周縁部を熱溶着された手掛孔を設けた重量物用合成樹脂製フイルム袋(別紙図面(三)参照)が記載されており、重量物用袋に把持部を設けることは記載されているが、本件実用新案の構成に欠くことのできない事項である、袋をポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いて形成した点、及びスリット状の把持部を溶断によって形成した点は何ら記載されていない。更に、甲第四号証の一ないし五には、織物生地を電熱カッタ等で切断処理すれば切口が溶着して「ほつれ」を防止できることが記載されているにすぎず、本件実用新案の構成に欠くことのできない事項とする前記の点は記載されていないばかりか示唆する記載も認められない。

(三) そして、本件実用新案は、ポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いた土俵に溶断によって形成した把持孔を、その構成に欠くことのできない事項とすることによって、明細書に記載されたとおりの、加工性は極めて良く、かつ極めて安価に形成できるばかりか、該スリット状縁部はその織物素地を構成する縦糸及び横糸が相互に溶着し、固化するため強固となり、ほつれの防止ばかりでなく取扱いに際して荷重に十分対抗できる、という甲各号証に記載された考案では期待することのできない効果を奏するものと認められる。

(四) したがって、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知と認められないばかりか、甲各号証には本件実用新案の構成に欠くことのできない事項である、袋をポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いて形成した点、及びスリット状の把持部を溶断によって形成した点は記載されていないので、本件実用新案は、甲第一号証ないし第四号証(枝番を含む。)に記載された考案に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるということはできない。

4  以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び引用した証拠方法によっては、本件実用新案の登録を無効とすることはできない。

四  審決の取消事由

審決の理由の要点1及び2は認める。同3(一)は争う。同3(二)のうち、甲第一号証、第二号証の一ないし三及び第三号証(審決における書証番号)には、スリット状の把持部を溶断によって形成した点は記載されていないとの点は争い、その余は認める。同3(三)のうち、本件実用新案の効果は、甲各号証に記載された考案では期待することのできない効果を奏するものと認められるとの点は争い、その余は認める。同3(四)は争う。同4は争う。

本件係争の構成が本件実用新案の出願前に公知であったとはいえず、また、甲各号証には、本件実用新案の構成に欠くことのできない事項である、袋をポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いて形成した点とスリット状の把持部を溶断によって形成した点が記載されていないので、本件実用新案は、甲各号証に記載された考案に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるということはできないとした審決の認定、判断は誤りであり、審決は、違法であって取り消されるべきである。

1(一)  本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったことは、次の各事実から明らかである。

(1) 本件無効審判手続において、原告は、本件実用新案の公告公報の記載を引用して、本件係争の構成が本件実用新案の出願当時周知であった旨主張したが、被告も、右構成が公知であることは認めていた。すなわち、被告は、審判事件答弁書(本訴における乙第一号証)において、 「昭和四〇年代中期に至っては、叺、米俵或いは麻袋等の空袋を主として利用していた定置網土俵の分野にも、その改善改良を図りながら積極的に代替化が進められ、これに伴い多くの発明、考案、意匠がなされている。即ち実用新案登録第一五八一四七一号の出願日以前に出願されてなる定置網土俵に係る発明、考案、意匠等が甲第一号証乃至甲第六号証に示されている」(七頁一行ないし八行)、「定置用土俵はその内部に土砂や岩石等を充填して多重化させることにより固定力を高め、以って定置網施設を所定海域に定置するものであるから、土砂や岩石等を充填しえる袋体と、充填土砂や岩石が漏出せぬよう開口部を閉塞する閉塞紐、及び定置網施設と連結させる連結網(かつらご)とで基本的形態が構成される。従って古来からの空麻袋や空叺、或いは空米俵でも袋体として十分機能し、ポリオレフイン系合成樹脂フラットヤーン織物素地による代替も、単に袋体の素材転換や僅かに閉塞作業の能率化のために開口部に予め閉塞紐を取り付けてなる例えば甲第一号証所載の考案の如きものか、実用新案登録第一五八一四七一号技術構成要旨の前段でいう如く、上端開口部に織物素地を内側に折返して補強縁を形成し、任意数個の挿通孔を穿孔し該挿通孔に閉塞兼連結ロープを包被縫合させた如きものであり」(九頁六行ないし一〇頁三行)と主張し、「・・・『空になった穀物袋に土砂類を詰めて定置用土俵として利用することが昭和四〇年代初頃より行われていた』こと、『昭和四〇年代中期には穀物袋の素材にポリオレフイン系樹脂の織物地が使用されていた』ことは当然被審判請求人も認めるところである」(審判事件第3答弁書一一頁七行ないし一五行)としていたのである。

右のとおり、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったことは、当事者間に争いがなかった。

(2) 次に、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったことは、無効審判の手続において、被告から提出された実公昭五一-五四五五五号公報(本訴における甲第三号証、以下挙示する書証の番号は、別段の表示をしない限り、いずれも本訴におけるものである。)、実公昭五七-二六六二〇号公報(甲第四号証)及び実公昭五六-五四七九五号(甲第五号証)によっても明らかである。すなわち、

〈1〉 甲第三号証は、昭和五一年一二月二七日出願公告に係るものであって、その実用新案登録請求の範囲には、「両面に明度の小さいポリオレフイン系フイルム1を積層したポリオレフイン系フラットヤーン筒状織物2を以って、幅及び長さの比が少なくとも1対2以上になるよう形成された袋状本体3の上下端部に口紐4、4'を各々装着してなる定置用土俵」が記載されており、同号証の第1図及び第二欄五行及び六行には、「筒状本体3の下端に底部6を予め形成し袋状となしたもの」が図解して説明されている。

〈2〉 甲第四号証は、昭和五七年六月九日出願公告に係るものであって、その実用新案登録請求の範囲には、「ポリオレフイン系テープヤーンを畝織してその表面に桝目状の畝1が形成されてなる織物素材を用いて袋体2となし、その上端開口部3をその長さが袋体2の全長に対し10~15%に相当するよう内側に折返して補強帯4を形成するとともに、該補強帯4の下端より略その中央部に亘って挿通スリット5が任意数溶切形成されてなり、且該挿通スリット5の上端部には裂開防止帯7が縫合形成されてなるとともに、該挿通スリット5にはかつらご6が交互に挿通されてなることを特徴とする定置用土俵」が記載されている。そして、右「挿通スリット5」、「かつらご6」が、本件実用新案における「挿通孔」、「閉塞兼連結ロープ」にそれぞれ相当することは、同号証の第1図及び第3図により明らかである。

ところで、甲第四号証は、本件実用新案の出願後に公告されたものであるが、出願公開は昭和五五年一〇月二七日になされているから、右考案の内容は本件実用新案の出願前に公知であった。そして、審判官は、同号証の記載から、右日時に出願公開がなされ、右考案の内容が公知となっていることは当然に認識し得たはずである。

〈3〉 甲第五号証は、昭和五六年一二月二一日出願公告に係るものであるが、その第一欄三三行ないし第二欄一行に、「・・・ポリエチレン若しくはポリプロピレン等ポリオレフイン系テープヤーンを用いて、袋織り若しくは平状織物となした織物素地を縫製加工により、開口部に閉塞用ロープを挿通形成させた所謂第4図の如き袋体」として作製した定置網の土俵が従来例として記載されており、第4図には、右のようなポリオレフイン系テープヤーンの筒状織物素地からなる袋体の上端開口部に閉塞用ロープを包被縫合させてなる従来品が図示されている。

ところで、甲第五号証は、本件実用新案の出願後に公告されたものであるが、出願公開は昭和五五年一二月四日になされているから、右技術内容は本件実用新案の出願前に公知であった。そして、審判官は、同号証の記載から、右日時に出願公開がなされ、右技術内容が公知となっていることは当然に認識し得たはずである。

(3) 本件実用新案の公告公報には、「定置網の固定係止具としては既に多種多様なものが考案されているが、このうち土俵においては砂質、泥質、岩盤等あらゆる海底条件においても比較的安定した固定性能が発揮されること並びに海底への投下敷設作業も簡便に行えること等から、現状においては最も広範に且多量に使用されているものである。」(第一欄三二行ないし第二欄一行)と記載されており、したがって、定置網の固定具としての定置用土俵について既に多種多様の考案が提案されていたこと、並びにそのような改良された定置用土俵が本件実用新案の出願当時に定置網漁業の業界に広く普及していたことが明らかにされている。そして更に、同号証には、右記載に引き続いて本件実用新案の出願当時に世に普及していた定置用土俵に関し、「然るにかかる土俵は第4図或いは第5図に示す如く、主としてポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地Aを所要の長さに裁断したるうえ、底部Bを折返し縫合するとともに上端開口部Cの織物素地Aを内側に折返して補強縁Dを形成するとともに、任意数個の挿通孔Eを穿孔し該挿通孔E内に閉塞兼連結ロープFを挿通させたもの、若しくは上端開口部C'に閉塞兼連結ロープF'を包被縫合させたもの」(第二欄八行ないし一七行、別紙図面(一)第4、第5図参照)が存在していたと、その材質及び構造等が詳しく説明されている。しかして、右記載が、本件実用新案の出願当時における定置用土俵の技術水準を説明したものであることは明らかであり、審決がいうように、本件実用新案の考案者が本件実用新案を完成するに至った過程において、解決すべき問題点があるものと認識したものを記載したものではない。

(二)  以上のとおり、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったことは、本件無効審判手続における当事者の主張や事実認否の経緯、被告の提出した証拠及び本件実用新案の公告公報の記載から明らかであるのに、特許庁は、十分に審理を尽くさなかったため、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったということはできない旨誤って認定したものである。

審決は、原告は主張事実を立証するために、本件実用新案の公告公報中に従来例として記載された事項を引用するだけで、その主張事実を立証するために他の証拠方法は何ら提出していないとしているが、原告が、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であることを証する証拠を提出しなかったのは、被告が提出した前記甲第三号証ないし第五号証により、当然、右事実が認定されるものと考え、証拠共通の原則からいっても、原告において重ねて立証する必要がなかったからにすぎない。そして、職権主義と実体的真実発見の原則が支配する無効審判手続において、審判官は、その職責上、当該事案に関する客観的真実発見に努力する義務があるところ、本件についても、審判官は、甲第四号証及び第五号証の記載から、その出願公開の日時を知ることができたのであるから、出願公開に係る考案の内容を調査して、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であるか否かを調査すべき義務があるものというべきであり、これらのことは容易になし得ることであったため、原告としては、敢えて甲第四号証及び第五号証記載の考案についての出願公開の日時及び内容を明らかにする資料を提出しなかったのである。

したがって、審決の前記説示は失当である。

2  本件実用新案は、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえないとした審決の判断は、以下述べるとおり、誤りである。

まず、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったことは、前記のとおりである。また、ポリオレフイン系テープヤーンの筒状織物素地を縫製してなる袋部材が、その中に土砂類を充填し、上端袋口の閉塞兼連結ロープを信玄袋のような巾着式に引き締めて定置網に連結し、アンカーとして使用されていたことも甲第三号証ないし第五号証に明示されている。

本件実用新案は、右のような基本的機能を有する従来周知の定置用土俵に対して、

イ その底縁部にスリット状の把持部を設け、一方の手により閉塞兼連結ロープで閉塞された袋口(上端開口部)の近傍を、もう片方の手で底縁部のスリット状の把持部を掴めるようにして、当該土俵の移動作業や海底投下作業を行い易くする。

ロ また、そのスリット状の把持部を溶断加工という方法で形成することによって織物素地を溶着固化させて、ホツレ防止と耐荷重性を高める。

といった機能を付加したにすぎないものである。

ところで、実開昭五六-九一二四八号公報(甲第六号証)には、「ポリプロピレンのモノフイラメントを網状に編んで形成した袋本体の下部に、帯状把手を設けた穀物収納袋」が、実公昭五一-一八一六七号公報(甲第七号証)には、「底縁部に周縁部を熱溶着された手掛孔を設けた重量物用合成樹脂製フイルム袋」がそれぞれ開示されている。甲第六号証記載の穀物収納袋における「帯状把手」、甲第七号証記載の重量物用合成樹脂製フイルム袋における「手掛孔」は、いずれも重量物が収納されて扱い難くなる袋詰め物体の持ち勝手や扱い勝手を改善するために設けられたものであることは明らかである。

しかして、定置用土俵や叺、米袋、麻袋、セメント袋等のような収納を対象とした重量物収納袋類の技術分野においては、取扱い、保管、搬送、積み上げ、荷下ろし等の作業上の問題や破袋防止上の問題に関して共通する技術的課題が多いことから、絶えず相互に技術の転用・置換等の交流が行われており、セメント袋や穀物収納袋に関する技術を参考にして定置用土俵に転用することも、重量物収納袋の製造販売を業務とする当業者にとってみれば当然に予測可能な範囲にあるものといえる。

換言すると、ポリオレフイン系テープヤーンの筒状織物素地を縫製してなる従来周知の定置用土俵の底縁部に、その持ち勝手と扱い勝手を富くするためにスリット状の把手部を設けるといった付加的な変更を加える程度のことは、商品の開発競争を生き抜く当業者にしてみれば、製造あるいは販売上の具体的要請に応じて随意に採択可能であり、その際、スリット状の把手部を溶断加工という在り来たりのヒートカット法で形成してホツレ防止と耐荷重性の向上を図ることも、甲第四号証に「該補強帯4の下端よりその上方略中央部に亘って任意間隔に挿通スリット5が溶切形成されている。・・・そして、該挿通スリット5は溶切形成されてなるためかつらご6が挿通されて閉塞時の締結が行われる場合でも織物素材のホツレが防止される」(第三欄四行ないし一二行)と記載されているとおり、定置用土俵の分野においては周知技術であった。

したがって、本件実用新案は、公知技術及び周知技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものである。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。

二  同四は争う。審決の認定、判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法はない。

1  本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったということはできないとした審決の認定に誤りはない。

(一) 本件無効審判手続において、被告が、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であることを認めたことはない。

被告が、右審判手続において、審判事件答弁書により、請求の原因四項1(一)(1)記載のとおりの主張をしたことは認めるが、それらは、ポリオレフイン系合成樹脂素材の製織のこと、麻織物からなる各種穀物袋及び紙素材からなる輸送袋等のこと、本件実用新案の出願前に出願されている発明、考案、意匠等のこと、定置用土俵の基本的形態及びポリオレフイン系フラットヤーン織物素地を用いる実公昭五一-五四五五五号公報(甲第三号証)記載の考案のこと、実公昭五九-二一六六一号公報(甲第二号証)記載の「上端開口部に織物素地を内側に折返して補強縁を形成し、任意数個の挿通孔を穿孔し該挿通孔に閉塞兼連結ロープを包被縫合させた如きもの」(本件係争の構成の一部)のことを断片的に述べたものにすぎず、本件係争の構成が本件実用新案出願前公知であることを認めてはいない。また、審判事件第3答弁書一一頁七行ないし一五行において、被告は、技術史的事柄として、単に、空になった穀物袋が定置用土俵に利用されたこと及び穀物袋にポリオレフイン系樹脂織物地が使用されたことを認めたにすぎない。

(二) 甲第三号証に記載されている定置用土俵は、袋本体3の上下両端部に口紐4、4'を各々装着している構成のものであって、本件係争の構成とは異なるものである。

甲第四号証及び第五号証は、いずれも本件実用新案の出願後に刊行されたものであって、公知性認定の資料とすることができないものであるため、審判官は、右文献を引用しなかったものである。

無効審判手続においては、無効事由の立証は請求人がなすべきであるから、請求人である原告が提出も援用もせず、しかも、本件実用新案の出願後に刊行された甲第四号証及び第五号証に基づいて、審判官が、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったか否かについて調査すべき義務はない。

(三) 本件実用新案の公告公報に請求原因四項1(一)(3)記載の事項が記載されていることは認めるが、公告公報に従来例が記載されているからといって、それが公知の技術であるとは限らないことはいうまでもないから、かかる従来例を、何らの証明もなく公知であるということはできない。

2  本件実用新案は、当事者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえないとした審決の判断に誤りはない。

甲第六号証、第七号証及び第八号証の一ないし五には、審決認定の技術事項が記載されているにすぎず、右甲各号証には、本件実用新案の構成に欠くことのできない事項である、ポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いた土俵に溶断によって形成した把持孔を設ける構成については開示または示唆されていない。また、右構成によって得られる把持孔の優れた加工性及び加工経済性並びに把持孔の高強度性が得られる作用効果は、右甲各号証記載の考案によっては奏することのできない格別なものである。

原告は、定置用土俵の低縁部に設けるスリット状の把手部を溶断加工といった在り来たりのヒートカット法で形成するホツレ防止と耐荷重性の向上を図ることは、甲第四号証の記載から定置用土俵の分野においては周知技術であった旨主張するが、甲第四号証は本件実用新案の出願後に発行されたものであるのみならず、同号証記載の挿通スリット5は把手部ではなく、その上下方向に伸びる縁部に何らの荷重も受けないから、荷重対抗性とは無縁のものであり、また、同号証には、定置用土俵の低縁部に溶断して形成した把手部を設けることについての記載はないから、原告の右主張は理由がないものというべきである。

第四  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

一  請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  本件実用新案の概要

成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案の公告公報)によれば、本件実用新案の概要は次のとおりであることが認められる。

本件実用新案は、定置網を固定係止させるための土俵に関するもので、更に詳しくは土俵の底部に把持部を形成してなるものに係るものである。定置網の固定係止具としては多種多様のものがあるが、このうち土俵は、砂質、泥質、岩盤等あらゆる海底条件においても比較的安定した固定性能が発揮されること並びに海底への投下敷設作業も簡便に行えること等から、現状では最も広範、かつ多量に使用されている。土俵は、一俵当たり五〇ないし六〇キログラムの土砂、岩石等が充填されてなるものであるが、両手で掴んでの作業となるため作業能率が極めて悪いなどの問題があるのに、取扱性の面について全く配慮がなされておらず、そのため、多量の土俵を充填し、敷設するのに要する作業は非常に困難を極め、しかも、その作業労力は莫大なものである。本件実用新案は、このような問題を解決することを目的とするものであって、土俵の底部に把持部を形成し、上端開口部と該把持部とを両手で把持できるようにし、もって、作業の簡便と能率化を可能ならしめることを目的とするものである。

本件実用新案の構成は、前記本件実用新案の要旨のとおりであるが、本件明細書に記載されている作用効果は次のとおりである。

イ  把持部4は、電熱鏝等で単にスリット状に溶断するのみで形成されるため、その加工性は極めて良く、かつ、極めて安価に形成できる。また、スリット状縁部は、その織物素地を構成する縦糸及び横糸が相互に溶着し、固化するため強固となり、ほつれの防止ばかりでなく、取扱いに際して荷重に十分対抗できる(この作用効果を奏することは、当事者間に争いがない)。

ロ  土砂、岩石等の充填後の保管に伴う移動作業、投下敷設に際しての所定海域までの運搬作業或いは船よりの海底投下作業時等でも、片手側で閉塞されている上端開口部5の近傍を、他方手で把持部4を掴んで作業できるため、引き上げ、引き落とし作業が無理なく行え、かつ、把持部4は、強固に掴むことができるから、荷落とし事故もなくなり、安全に作業ができる。

ハ  閉塞された上端開口部5と把持部4は、充填された土俵の縦方向のほぼ中央位置に形成されているから、引き上げ時、或いは取扱時の荷重は偏りなく、ほぼ均等に上端開口部5と把持部4とに分散されるため、安定した取扱作業が行えるなど、その作業性は極めて簡便に、しかも、能率的に行うことが可能となる。

三  審決の取消事由に対する判断

実開昭五六-九一二四八号公報(甲第六号証)及び昭和五四年一二月一四日付け実用新案登録願書(甲第一一号証)には、ポリプロピレンのモノフィラメントを網状に編んで形成した袋本体の下部に帯状把手を設けた穀物収納袋が、実公昭五一-一八一六七号公報(甲第七号証)には、底縁部に周縁部を熱溶着された手掛孔を設けた重量物用合成樹脂製フイルム袋が、それぞれ記載されているが、これらには、袋をポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いて形成した点が記載されていないこと、足立達雄外著「繊維工学Ⅱ織物」(甲第八号証の一ないし五)には、織物生地を電熱カッタ等で切断処理すれば、切口が溶着して「ほつれ」を防止できることが記載されているが、袋をポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いて形成した点及びスリット状の把持部を溶断によって形成した点が記載されていないこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

1  そこでまず、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったとはいえないとした審決の認定の当否について検討する。

(一)  本件実用新案の公告公報には、〈1〉「定置網の固定係止具としては既に多種多様なものが考案されているが、このうち土俵においては砂質、泥質、岩盤等あらゆる海底条件においても比較的安定した固定性能が発揮されること並びに海底への投下敷設作業も簡便に行えること等から、現状においては最も広範に且多量に使用されているものである。」(第一欄三二行ないし第二欄一行)、〈2〉「然るにかかる土俵は第4図或いは第5図に示す如く、主としてポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地Aを所要の長さに裁断したるうえ、底部Bを折返し縫合するとともに上端開口部Cの織物素地Aを内側に折返して補強縁Dを形成するとともに、任意数個の挿通孔Eを穿孔し該挿通孔E内に閉塞兼連結ロープFを挿通させたもの、若しくは上端開口部Cに閉塞兼連結ロープF'を包被縫合させたもの」(第二欄八行ないし一七行)と記載されていることは、当事者間に争いがない。

しかし、前掲甲第二号証によれば、右記載は、考案の詳細な説明の項において、定置用土俵に関する従来例の問題点を指摘するために記されているものにすぎないことが認められ、従来例であるとする右〈2〉の構成が本件実用新案の出願前公知であることについては、右従来例が広く当業者に知られているものと認めるに足りる証拠もなく、また、同号証で公知例を引用するなど根拠を示して具体的に明らかにされているわけではないのであるから、前記記載から直ちに本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であると認定するのは相当でない。

したがって、前記記載のみをもって直ちに本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったということはできないとした審決の認定に誤りはない。

(二)  被告が、無効審判手続において、審判事件答弁書及び審判事件第3答弁書をもって、請求の原因四項1(一)(1)記載の主張をしたことは、当事者間に争いがない。

ところで、職権主義が採用されている無効審判手続においては、ある事実について当事者間に争いがないからといって、審判官は、そのことに拘束されるものではないが、そもそも、被告の右主張の内容は、昭和四〇年代中期以降ポリオレフイン系合成樹脂フラットヤーン織物素地からなる定置用土俵が出現するようになったことや、その形状が「上端開口部に織物素地を内側に折返して補強縁を形成し、任意数個の挿通孔を穿孔し該挿通孔に閉塞兼連結ロープを包被縫合させた如きもの」(本件係争の構成の一部)であることなどを述べたものにすぎず、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であることを明確に認めたものと即断することはできない

(三)  審判手続において被告から提出された甲第三号証ないし第五号証により、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったと認定できるか否かについて検討する。

(1) 成立に争いのない甲第三号証によれば、実公昭五一-五四五五五号公報(甲第三号証)は、本件実用新案の出願前である昭和五一年一二月二七日出願公告に係るものであり、右公報の実用新案登録請求の範囲の項には、「両面に明度の小さいポリオレフイン系フイルム1を積層したポリオレフイン系状フラットヤーン筒状織物2を以って、幅及び長さの比が少なくとも1対2以上になるよう形成された袋状本体3の上下端部に口紐4、4'を各々装着してなる定置用土俵。」と記載されており、考案の詳細な説明には、「筒状本体3の下端に底部6を予め形成し袋状としたものを使用しても差支えない。」(一頁二欄五行及び六行)と記載されていることが認められる。

右記載によれば、甲第三号証記載の定置用土俵は、ポリオレフイン系フラットヤーン織物2と右織物2の両面に積層したポリオレフイン系フイルム1とからなる素地を筒状に形成して袋状本体3を形成し、袋状本体3の上下端部に口紐4、4'を各々装着したものであると認められる。

そこで、右定置用土俵と本件係争の構成とを比較すると、

イ 筒状の素地が、本件係争の構成では、「ポリオレフイン系テープヤーン」であるのに対し、甲第三号証記載の定置用土俵では、「ポリオレフイン系フラットヤーン織物2と右織物2の両面に積層したポリオレフイン系フイルム1」である点

ロ 土俵の下端部が、本件係争の構成では、「底部を縫合する」ものであるのに対し、甲第三号証記載の定置用土俵では、「下端部に装着した口紐で締結する」ものである点(但し、底部を予め形成し袋状としたものでも差し支えない。)

ハ 土俵の上端部が、本件係争の構成では、「織物素地を内側に折返して補強縁を形成するとともに任意数個の挿通孔を穿孔し、該挿通孔に閉塞兼連結ロープを挿通させてなるもの、若しくは上端開口部に閉塞兼連結ロープを包被縫合させてなる」ものであるのに対し、甲第三号証記載の定置用土俵では、「素地の上端部に開口部締結用の口紐を装着した」ものである点

で相違している。

そうすると、甲第三号証記載の定置用土俵が本件係争の構成を備えていないことは明らかであり、同号証により、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であることを認あることはできない。

(2) 成立に争いのない甲第四号証によれば、実公昭五七-二六六二〇号公報(甲第四号証)は、昭和五七年六月九日出願公告に係るものであること、その実用新案登録請求の範囲は、「ポリオレフイン系テープヤーンを畝織してその表面に桝目状の畝1が形成されてなる織物素材を用いて袋体2となし、その上端開口部3をその長さが袋体2の全長に対し10~15%に相当するよう内側に折返して補強帯4を形成するとともに、該補強帯4の下端より略その中央部に亘って挿通スリット5が任意数溶切形成されてなり、且該挿通スリット5の上端部には裂開防止帯7が縫合形成されてなるとともに、該挿通スリット5にはかつらご6が交互に挿通されてなることを特徴とする定置用土俵」というものであること、右公報には、出願公開の日時が昭和五五年一〇月二七日と記載されていることが認あられる。

また、成立に争いのない甲第五号証によれば、実公昭和五六-五四七九五号公報(甲第五号証)は、昭和五六年一二月二一日出願公告に係るものであること、右公報記載の考案は定置網の土俵に関するものであるが、右公報の第一欄三三行ないし第二欄一行には、「現在使用されている土俵は、主としてポリエチレン若しくはポリプロピレン等ポリオレフイン系テープヤーンを用いて、袋織り若しくは平状織物となしたる織物素地を縫製加工により、開口部に閉塞用ロープを挿通形成させた所謂第4図の如き袋体のものであって、」と記載されており、第4図には、右従来品が図示されていること、右公報には、出願公開の日時が昭和五五年一二月四日と記載されていることが認められる。

ところで、甲第四号証及び第五号証の各公告公報は、いずれも本件実用新案の出願後に刊行されたものであるから、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったか否かを判断する資料とはなり得ないことは明らかである。

前記のとおり、右甲各号証記載の考案は、本件実用新案の出願前に出願公開されているところ、原告は、審判官は右各公報の記載から出願公開の日時を知ることができたのであるから、出願公開に係る考案の内容を調査し、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であるか否かを調査すべき義務がある旨主張する。

しかし、公告公報と公開文献(公開公報及び公開マイクロフイルム)とは、個々に独立した別個の刊行物であること、特許法における職権審理及び職権証拠調べについての規定も、審判官にこれを義務づけたものと解するのは相当ではないこと、原告は、本件無効審判手続において、甲第四、第五号証記載の各考案の公開文献(本訴における甲第九、第一〇号証の各一・二)を提出することについて、特に支障となるような事情もないのに、提出その他適宜の手続をしなかったものであることからすると、審判官が、当事者(特に無効審判請求人である原告)から提出も指摘もされていない甲第四、第五号証記載の各考案の公開文献について、職権で調査すべき義務があるとは認められず、原告主張の調査をしなかったことが審理不尽に当たるとも認め難い。

したがって、右公開文献が、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知であったことの認定資料となることを前提とする原告の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知とは認められないとした審決の認定に誤りはない。

2  次に、本件実用新案は、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえないとした審決の判断の当否について検討する。

本件係争の構成が本件実用新案の出願前公知と認められないとした審決の認定に誤りのないことは前記のとおりである。

そして、実開昭五六-九一二四八号公報(甲第六号証)、昭和五四年一二月一四日付け実用新案登録願書(甲第一一号証)及び実公昭和五一-一八一六七号公報(甲第七号証)には、袋をポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いて形成した点が何ら記載されていないことは、前記のとおりであり、成立に争いのない甲第六号証、第七号証及び第一一号証によれば、右各公報及び願書には、本件実用新案の構成要件の一部であるスリット状の把持部を溶断によって形成した点は何ら記載されていないことが認められる。また、足立達雄外著「繊維工学Ⅱ織物」(甲第八号証の一ないし五)には、袋をポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いて形成した点及びスリット状の把持部を溶断によって形成した点が記載されていないことは、前記のとおり当事者間に争いがない。

更に、本件実用新案は、袋をポリオレフイン系テープヤーンを筒状に製織してなる織物素地を用いて形成したこととスリット状の把持部を溶断によって形成したことによって、前記二項に記載のとおり、加工性が極めて良く、かつ、極めて安価に形成できるほか、スリット状縁部は、その織物素地を構成する縦糸及び横糸が相互に溶着し固化するため強固となり、ほつれの防止ばかりでなく、取扱いに際して荷重に十分対抗できるという作用効果を奏するものであって、これらは、右甲各号証記載の技術からは期待することのできないものであることは明らかである。

以上のとおりであるから、本件実用新案は、甲第一号証ないし甲第四号証(審決における書証番号)に記載された考案に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるということはできないとした審決の判断に誤りはないものというべきである。

原告は、ポリオレフイン系テープヤーンの筒状織物素地を縫製してなる定置用土俵の底縁部に、その持ち勝手と扱い勝手を良くするためにスリット状の把手部を設けるといった付加的な変更を加える程度のことは、随意に採択可能であり、その際、スリット状の把手部を溶断加工という在り来たりのヒートカット法で形成してホツレ防止と耐荷重性の向上を図ることは、甲第四号証の記載からしても、定置用土俵の分野において周知技術であったから、本件実用新案は、当事者がきわめて容易に考案をすることができたものである旨主張する。

しかし、本件実用新案の出願当時、定置用土俵の底縁部にスリット状の把持部を設けることが随意に採択可能であったことを認定できる証拠はなく、また、スリット状の把持部を溶断により形成して、ほつれ防止と耐荷重性の向上を図ることが定置用土俵の分野において周知技術であったことを認め得る証拠もない。因みに、甲第四号証は、本件実用新案の出願後に刊行されたものである上、同号証に記載されているものは、定置用土俵の上端開口部3を内側に折返して形成した補強帯4にかつらご6を通すための複数の挿通スリット5が上下方向に溶切形成されたものであって、この挿通スリットはほつれ防止としての機能は有するものの、その上下方向に伸びる縁部に何らの荷重も受けないから荷重対抗性は有しないものであるから、同号証は、原告の主張を裏付けるものではない。

以上のとおりであって、審決に原告主張の違法はない。

四  よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 田中信義)

別紙(一)

〈省略〉

別紙(二)

〈省略〉

別紙(三)

〈省略〉

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